旧約聖書の本文研究──『ビブリア・ヘブライカ』入門

旧約聖書の本文研究―『ビブリア・ヘブライカ』入門

旧約聖書の本文研究―『ビブリア・ヘブライカ』入門

春学期に充実度の高かった授業の一つに、エレミヤ書の原典購読のクラスがある。1回の授業で1章を扱うので、準備も大変だったが、授業中だけでは消化しきれないということもあった。そんなわけで、秋学期は2回の授業で1章を扱うことになった。今週は、秋学期で扱われる30―33章の概説をM1のKさんが発表してくれることになっているが、そもそも我々のBHSの知識が相当に乏しいということが春学期にわかっていたので、上記の本を読んでくるようにとの指示が先生からあった。
 本書は副題が示すように、そもそもBHSの前身であるBHKの手引きとして書かれたものである。版を重ねて改訂され、第5版でBHSにも対応した決定版となった。旧版の翻訳も1977年に聖文舎というところから出されている。鍋谷氏の訳文は読みやすいが、誤訳も多いように思われる。その点で、表現は硬くなったものの、本間氏の翻訳が出たことは喜ばしい。
 本文は5部からなり、50近くの写真資料が後半にまとめられている。第一部では文字と筆記材料について詳しく説明されたあと、マソラ本文についての説明が大半を占める。しかし、ここに『BHSのマフテアハ』のようなものを期待しても駄目である。『マフテアハ』が目指しているのは、既に本として出来上がったBHSを“どう使ったらいいのか”ということの手助けをすることである。だから、記号や略号の意味が並べられているだけなのである。それに対し本書は、そのように直接的に役立つ本ではない。言うなれば、BHSに至る歴史が記されているのである。第二部は、七十人訳とタルグム、ペシッタについて。第三部は、ラテン語コプト語などその他の翻訳についての解説である。このように、原語での本文伝達、翻訳での伝達の事情を知った上で、どのように本文を再構成するかという本文批評の目的と方法が第四部で概観される。第五部は、本文批評の神学的意義が短く述べられる。